牛久沼で堤防嵩上げ 検討委 対象は計画高水位以下の6カ所

[2024/1/16 茨城版]
 牛久沼越水対策検討委員会(委員長:武若聡筑波大学教授)は12月25日、県薬剤師会館で第3回会合を開催した。今回は牛久沼周辺の現況と課題を踏まえ、今後実施する対策内容について議論を行った。ハード対策では、堤防の嵩上げや農地保全堤の対応などを実施していく方向性を示した。このうち、堤防の嵩上げでは、地盤沈下の影響で計画高水位YP7.5m以下となっている6カ所で工事を実施していく。今後はこれまでの検討内容を本年度内にも提言書としてとりまとめ、県に提言する予定。県ではこの提言を踏まえ、具体的な検討を行い、早期に実施していく考えだ。

 この検討委員会は23年梅雨前線による大雨と台風第2号に伴い発生した牛久沼(谷田川)における越水被害について、越水発生の要因などを調査したうえで、総合的な対策を検討することを目的とするもの。組織は委員長の武若教授をはじめ、委員に堤盛人筑波大学教授、横木裕宗茨城大学教授、小渕康正国土交通省利根川下流河川事務所長で構成する。

 これまでの検討の結果、浸水の主な要因は、経年的な地盤変動による堤防の沈下だと指摘。また、シミュレーションの結果から、浸水時に県が工事を進めていた八間堰水門の影響は、主な要因ではないとも言及している。

 堤防が沈下した箇所については、23年7月に実施したレーザ測量の結果、計画高水位であるYP7.5m以下に沈下していた堤防が牛久沼全域で6カ所あることが判明。具体的には、龍ケ崎市稗柄町で1カ所(最大マイナス0.29m)、同市佐貫町で1カ所(最大マイナス0.39m)、つくば市森の里で1カ所(最大マイナス0.46m)、八間堰水門下流で3カ所(最大マイナス0.68m)となる。また、農地においても農地保全堤の堤体高がYP7.2mからYP6.5m程度に沈下していることが判明している。

 こうした状況を踏まえ、牛久沼周辺の課題として、▽計画高水位YP7.5m以下の堤防高不足への対応▽地盤(地質)状況を考慮した堤防の構築▽農地(農地保全堤)の従前機能確保▽避難行動に関する水位情報などの取得、周知▽堤防高の定期的な把握▽八間堰水門の運用見直し──を掲げた。

 これらの課題解決に向けて、県ではハード対策とソフト対策を実施していく。このうち、ハード対策としては、堤防嵩上げの実施と農地保全堤の対応、流域治水の促進を進める。

 堤防嵩上げの方針としては、堤防高が不足している6カ所で整備を行う。その際には、今後の地盤沈下に対応するため、計画高水位YP7.5m+余裕高+余盛を基本とする。嵩上げの方式については、土堤による築堤を原則とした。ただし、建物近接などの用地制約が見込まれ、嵩上げが困難な場所については、特殊堤(パラペット)の採用も検討していく。なお、予定している堤防の嵩上げを実施した後の効果をシミュレーションしたところ、越水した3カ所を含め、宅地部では浸水が解消するという結果がでたという。

 農地保全堤については、地盤沈下への対応を行う。その際には、従来のYP7.2mまで復旧し、機能を回復する。また、流域対策としては、調整池や貯留浸透施設などの整備促進する方向性を示した。

 ソフト対策については、▽河川監視の強化▽堤防点検の強化▽水防連絡体制の強化▽水門運用の検討と高度化──を盛り込んだ。このうち、河川監視の強化としては、監視カメラと水位計の増設を提案。また、国が進める越水センサーなどの先進事例の導入を検討していくことも示された。堤防点検については、目視点検の徹底や沈下板の設置に加え、航空レーザ測量による定期観測、ドローンやAIを活用した堤防点検の高度化などが盛り込まれた。

 これまでの検討について、武若委員長は浸水発生から迅速に調査やシミュレーションを行い、今後の対応まで方向性を示したことを評価。また、「これまで地盤沈下という要因は見落としていた。これは誰かを避難することではなく、高度な測量を実施しないと分からないものだった。今回の委員会で地盤沈下が要因だと分かったのは、良い気づきになった」と述べ、地盤沈下に注意喚起しつつ、治水に取り組む必要性を強調した。

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