物流系で土地需要堅調 25年度 地価調査の結果(宮城県)
[2025/9/17 宮城版]
県は2025年度の地価調査結果を公表した。本県における全用途の平均変動率はプラス1.8%で、13年連続で上昇。一方で上昇率は昨年度のプラス2.2%から縮小した。不動産鑑定士の西山敦氏(西山総合鑑定所)は「物流系の工業地の需要が堅調で、半導体工場の進出計画の白紙化の影響は見られない」とした。
公表した地価は、県内35市町村における7月1日時点の価格。前年度からの調査継続地点は399地点、選定替え(新設)地点が6地点だった。
継続地点を用途別に見ると、住宅地が267地点、宅地見込地が1地点、商業地が96地点、工業地が16地点、林地が19地点。
全用途の平均変動率を地域別に見ると、仙台市がプラス6.3%、仙台市周辺市町村がプラス5.1%で、いずれも14年連続で上昇したが、上昇幅は縮小した。その他の市町はマイナス1.3%で、下落が継続しており、下落幅も拡大した。
本県の用途別では、住宅地、商業地、工業地のいずれも上昇幅が縮小。林地はマイナス0.9%となった。
西山氏は今回の工業地を除く特徴について「仙台圏の住宅地の上昇率が縮小している。商業地は好調を維持しているが、建築費の高騰などが理由でプロジェクトの停滞や遅延も見られる。また、被災沿岸部や温泉街の落ち込みが加速している」と整理した。
住宅地の二極化進む
住宅地について見ると、本県の平均変動率はプラス0.9%で、13年連続で上昇。それでも上昇幅は昨年度のプラス1.4%から縮小した。上昇率は全国で14位(昨年は9位)。最高価格地点は「青葉-2(上杉4丁目)」の1平方m当たり46万3000円。最も上昇した地点は「利府-1(神谷沢字金沢)」で、上昇率が11.4%となった。最も下落した地点は「気仙沼-9(本吉町馬籠町)」で、下落率がマイナス5.9%だった。
今回の地価調査においても、人口や世帯数の減少が進む市町村と、仙台市や仙台圏の富谷市、名取市、多賀城市、利府町、大和町などとの間で、二極化する結果となった。
特に沿岸部の石巻市、気仙沼市、南三陸町など、人口流出が進んだ東日本大震災の被災地域は、住宅市場の下落傾向が強い。内陸部の登米市、栗原市、蔵王町などの地域は、高齢化などの進行により住宅市場が縮小し、価格が低迷している。
仙台市の住宅地は平均変動率がプラス5.1%で、14年連続の上昇だが、上昇幅は縮小した。子育て世帯を中心とする住宅取得意欲は高いままで推移しているが、建築費の上昇が続いているため、価格的に上限値に近づいている中心市街地から、利便性が同等の広範囲な地域へと用地需要が拡大する傾向が見られる。
青葉区は市中心部でのマンション用地や賃貸マンションなどの収益物件への積極的な取得の動きが継続している。宮城野区は榴岡5丁目のホテルメルパルク跡地に、タカラレーベンなど4社の共同により2027年9月完成予定で、22階建て分譲マンションが計画されている。建築費の高騰により事業が当初の計画通りに進むかという懸念もある中、販売が開始されたと報告した。
商業地は仙台市で高い上昇率を継続
商業地について見ると、本県の平均変動率はプラス4.0%で、13年連続の上昇。上昇率は全国8位で、昨年と同じ。前年からの継続地点96地点のうち、63.6%に当たる61地点が上昇した。仙台市は全地点(44地点)が上昇した。
最高価格地点は43年連続で「年青葉5-1(中央2丁目)」となった。7月1日時点の価格は1平方m当たり446万。最も上昇した地点は「宮城野5-1(榴岡1丁目)」で、上昇率がプラス14.3%。最も下落した地点は「気仙沼5-2(本吉町津谷松岡)」で、下落率がマイナス5.8%。
仙台市の中心商業地域では、オフィス需要が安定しており、飲食や小売関連の新たな店舗進出などの動きも進み、ホテル進出の動きもある。
仙台市の平均変動率はプラス7.6%で、高い上昇率を継続している。市が「都心再構築プロジェクト」として高機能オフィスへの建て替えに助成する制度を進めているほか、約30年ぶりとなる地域地区と地区計画の全体的な見直しを行っている。
青葉区では開発の動きとして、仙台駅西口青葉通りに位置する読売仙台ビルの建て替えが発表された。地上10階建て延べ約4万2000平方mの店舗・オフィス・ホテルから成るビルが計画されており、2029年度の完成予定。一番町3丁目7番地区の市街地再開発事業は「電力ビル」を核とする再開発で、35階建てと24階建てのツインタワーを建設する計画。35年度の完了を予定している。
宮城野区の平均変動率はプラス10.2%で、高い上昇を維持している。仙台駅東口エリアでは開発意欲が変わらず強く、西口と比較して未だ地価水準に割安感がある。
若林区では仙台工業団地の跡地(六丁の目元町)で、大規模商業施設と大規模マンションの建設計画が進行中で、首都圏の大規模商業施設が進出するという情報もある。
太白区ではあすと長町地区の12街区や17街区で建設が予定されているイオンタウンについて、未だ具体的な計画が発表されていない。
泉区は所有者が賃貸マンションなどを建設して運用しているため、供給が少なく、収益物件等の適地が市場に現れると、取得競争になる傾向に変わりがない。泉区役所の建て替え事業に伴う周辺一体の開発が進められており、30年の竣工を目指して工事が進んでいる。
このほか、名取市は平均変動率がプラス9.9%で、前年度のプラス9.7%を上回った。国道4号・県道仙台館腰線沿いや、杜せきのした・美田園地区の幹線沿いで、大手チェーン店やホテルなどが進出し、繁華性が高まっている。これまで開発が見られなかった美田園駅の南側駅前地区で6月に複合商業施設が開業し、14階建て総戸数100戸強の分譲マンションも26年に竣工予定で建設中。
扇町4丁目は上昇率が全用途で最高 工業地
工業地は、本県の平均変動率がプラス3.3%で、13年連続の上昇。仙台市の平均変動率はプラス13.7%で、14年連続の上昇。最も上昇した地点は「宮城野9-2(扇町4丁目)」のプラス20.2%で、全用途で最も上昇した地点となった。
本県の工業地は東北の物流拠点として、仙台圏を中心に物流施設用地需要が旺盛な状況となっている。仙台圏は高速道路網が発達しており、大型物流拠点の新設が見られ、新たな工業団地の造成の動きも多い。
仙台市内の市街地に近い工業地では、大手物流施設デベロッパーが積極的な開発意欲を見せているものの、まとまった土地が少なく、仙台圏を構成する近隣市町村へ需要が流れる傾向も見られる。
岩沼市工業地の平均変動率はプラス14.7%で、前年のプラス11.8%を上回った。物流施設への投資は旺盛で、特に仙台東部道路インターチェンジ(IC)や主要幹線街路に近い配送拠点としての物流施設用地について需要が高い。
富谷市でも東北自動車道仙台泉ICからの接近条件の良さから、成田地区などに物流施設が進出している。eコマースのさらなる拡大に伴って、高機能物流施設の立地は今後とも進んでいくものと考えられている。富谷市高屋敷西土地区画整理事業は、総面積が30.6haで、26年3月の終了を予定している。
※メモ=地価調査とは
国土利用計画法に基づく土地取引の規制を適正かつ円滑に実施するため、県が毎年1回、基準地の正常な価格を調査し、単位面積当たりの標準価格を判定し、公表している。これは、国が実施している標準地の公示価格(3月公表)と併せて、一般の土地取引価格の指標にもなっている。